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湾岸をひた走る僕らパラノイア スピカ クローネ 脈絡もなく chloe(吉野リリカ)の創作いろいろ。
無色透明ベビー3
22





深いため息をついて、私は目を閉じた。
運ちゃんは、「心配ご無用だよ、お客さんが行きたい場所ならとうにわかってますよ。今までさぞ大変な事でしたでしょう?思い出せない?ばかな。心を静めて落ち着いてみればすぐにわかりますよ」
と言って、薄く笑った。落ち着こう、そう自分に言い聞かせた。カーステレオからは「太陽がいっぱい」がエンドレスで流れていて、この運ちゃんがそのように設定したのだろう、もう5回はそれを聴かされているのだ。
暫くは、何も考えたくなかった、否、考えられなかったが、それでいいと自分を甘やかして目を閉じた。

どれくらいの時間、こうしてこのシートに座っていただろう。1,2時間のような気もするし、一年のような気もする。私ははっとして傍らのバッグに目をやった。バッグはなかった代わりに、10歳くらいの少年が座っていた。少年は虚ろな目をして、窓の外を見ていた。
「ソウタ?」
「何?」
そうだ、私はこの少年ソウタと旅をしていた。
「思い出せましたか?」運転手が真っ直ぐに前を見たまま尋ねる。
「ええ。」
少年ソウタはそれにも飽きてきたようで、しきりにあくびをしたり落ち着かない様子で足をぶらぶらさせたりし始めた。そして「海にいます。海にいますよ」と私の目を見ずに凛としたつめたい朝の水のような声で発声した。海に何がいるのだっけ?いくら思い出そうとしても思い出せないし、また再びあの頭痛が襲ってきそうで怖かった。ソウタの声は私を切りつけるナイフのように鋭利だった。


 
posted by クロエ | 19:27 | 小説クロエ | comments(0) | - |
おさないもの
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おさないものをみるたびに
ちかごろわたしのおもうこと

あのこがおおきくなったころ
わたしはここにいるかしら
おさないものをみるたびに
あんなとおくにいたことを
こんなとおくにいることを
ちかごろつくづくおもうのだ

あけのあかほしよいのほし
ひとみこらしてみたひから
いつしかずいぶんときがゆき
いつしかよるはふけまさり
やみのふかさはいやまして
わたしがどこにいるのだか
わたしのいのちのありかさえ
もうわからないなにもない

こんなしずかなよるのそら
だれがみあげているんだろ
むかしながらのほしばかり
おそれしらないひとみのように




 
posted by クロエ | 20:03 | 詩クロエ | comments(0) | - |

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海は
凪をあそんでいる


かすみ立ち かすみ消えるあの凪に誰かまじることがあるのだろうか


ことば  と、 わたしは呼んでみる


「たそがれひとり戸に立ち寄りて切なくきみを思はざらめや」  と

わたしも外に出て
戸口に立つことも覚えたのだ

ことばは消えることができる
わたしはなにを消したのだろう
とぶように逃げて行く時 に立ちはだかって
失うものを
あずけたのではないか
ことばに

ことばは消える
ことばは抱きしめる

そんな愉楽の
夕凪の
とき

ねぇ、
誰か覚えている?





中国の詩人、小夜の作

posted by クロエ | 22:18 | 詩クロエ | comments(0) | - |
「終わり」の鐘
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美しい時間の中に
普段みられない溜息と
哀しいほどに色褪せた思い出が
人と人との諍いで
完全に消えてしまった


長い沈黙の後で
救われない心の動揺を
そっと押し殺す
蓄積した疲労の塊を
少しずつ解き放つ時
突然押し寄せる配色の波
私たちは常に人間であることを
試されている


誰かが丹念に育てた豊穣な麦のように
いつかきっと人のために
役に立つ時が来る
そのように私たちは
生まれたはずなのに

気がつくとこんなに堕ちてしまった
神の手で作られたシナリオは
時に
とても残酷でもあり
奇跡的だったりする


やがて用意された「終わり」の鐘が鳴らされ
急変する山の天気のように
突然舞い降りた光の天使が
私たちを自由な明日へ
静かに導いてくれるだろう



 
posted by クロエ | 18:22 | 詩クロエ | comments(0) | - |
ぶるぶるとケータイが震える
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手をふって別れた
それからホームに突き落とした

どこにも行くところがなくて
空も飛べなくて
くるしむことも
くるうこともできないぼくらは
からだの重心がおかしくなっている
ゆらゆらとフルえる心臓がヘンな生き物に
なって(いる(いない(いないかもしれない
ぶるぶるとボクにでんぱが届く
どこまでがぼくなのか(わからないね
ぼくから(ぼくは(ゆれつづけて
どこにもいない街の知らない駅の改札をとおった
それから
ネコをみかけたからにゃあと鳴いてみた
コンビニでマンガを立ち読みして
海の味がするペットボトルの水を飲むと
なみだがこぼれそうになったそんなことはない
地図をひろげて
セカイはこんなに広いのに
どうしてこんなに狭いのかを考えた
ぶるぶるとケータイが震えて いる
きみとなんでもいいから話したかったけれど
きみもぼくもどこにもいないから
誰とも話すことはできなくて
だれでもよかったんだけど
偶然のきみに
手をふって別れた(ぶるぶる
手をふって

それからホームに突き落とした
 


posted by クロエ | 16:53 | - | comments(0) | - |
顔売り
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顔売りの
夢を視た

雨脚が斜めにしぶいて
半透明な粘りを増していた
しかし 見張っていると
雨が地上から空へと
もどっているのだ
はじめての帰省のように
朝焼けを包んでいた


顔売りの夢を
視たのだった


空っぽの卵巣に
狂気の釘のように詰まっていたもの
おびただしい  死
こんなにも多く思っていたのだ
死の子音の
昨日の 一か月前の 一年前の
それから無添加の  死
大量の死はむしろ
生をしたたかに照らすことだ
決別の証が
全卵を機能する


空のものが空に帰っていった今日
生まれたての人間のように
鏡の薄皮を
剥いでみようか

 
posted by クロエ | 18:01 | 詩クロエ | comments(0) | - |
おばあさんのバラッド

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女湯
は、おばあさんばっか
おばあさんのヌードばっかなんだな
これが

せっかくのヌードばっかではあるが
ハッキリ云ってミニクク
壊れて壊れて崩れて崩れて
滅びるまで後もう少し
泥になるまで後もう少し

おばあさんの肉体は大廃墟

大廃墟はあたしたちの未来
これだけは確実

おばあさん
一緒に壊れていきましょうね
一緒に崩れていきましょうね
一緒に滅んでいきましょうね

壊れることは美しいこと
滅んでくれるから生まれてこられる
廃墟こそまっさらで
大廃墟こそ美しい

雄々しくなんて云ったらおかしいけど
女々しくなんて云ったらもっとおかしい

おばあさん
おばあさん
雄々しくその大廃墟を晒しましょう
なんて云うことなかった

だって大浴場のおばあさんたちときたら
もうしっかり当たり前の裸の動物になって
目を覆いたくなるよなしわしわぶよぶよのヌード
正々堂々
ジェットバスん中で泳がしてる
もう この世もあの世もない目つきで
この時ばかりは極楽の目つきで

おばあさん
おばあさん

あたし
おばあさんたちといると安らか
何もかも手放したような
ぽっかり青空だけが広がっているような
おばあさんのからだだらけ
あたしもう
どうでもよくなって

下弦の月

背中ながさないで

涙なんかながして





posted by クロエ | 18:04 | 詩クロエ | comments(0) | - |
夜が来る
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夜が来る
河川敷の野球場を眺めながら
わたしはバナナを食べている
わずかな水をくねらせて
高架電車が過剰な灯りを撒いて過ぎる


夜が来る
一度も喚声の上がったことのない球場に
わたしの生活と同じ歳月だけは過ぎていった
罠のようだった雑草はみな枯れ果てて
バナナの皮だけが生き生きとしている


夜が来る
バナナのような脚の女が生活の音を立てて
視界をよぎる
なんてことは二度と起こらないだろう
わずかな水にわたしの影が影を曳いている


夜が来る
風がわたしの生活を外野あたりに吹き散らし
バナナのようににちゃにちゃした記憶を
よみがえらせる
生活の泡がわたしのコートの裾にまとわりつく


夜が来た
ようやく土手から立ち上がるとき
しかしそんな生活の歴史はバナナとともに
ちっぽけなくだらない神の手に落ちてしまう


 
posted by クロエ | 19:56 | 詩クロエ | comments(0) | - |
クリック
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こどもたちは夜に棲んで、戦争を、
ゆめみている、マウスよ、悲しみの
もとに。
第三十二回世界大戦の戦況は僅差で……(雑音)……の有
利です
ゆめをみないこどもたちの、
を、
しらないふりをする。
に、
負けて、わたしたちはいちど滅びた、マウスよ、悲しみの
ねずみよ。
たたかうことは戦争とはちがうのだと教えられて育った
ひとつのまるいかたまりでいるために、たたかえ、あらそいは、
よいけれども戦争をしてはいけない、きいろい満月、ぼくの
帽子だよ。
そしてわたしたちはどんな戦争もしていない。まだ
マウスだけ
が、きみ
わけあおう
クリック。
たたかいとせんそうをいっしょにしてはいけない
きいろい麦わら帽はかわりばんこにしよう
めくらましに。
絶滅をまだ知らなかった、さいごの、
のなかでのみ戦争を知っていて、
ひとり遠くのほしの
息。
絶える。悲しみのねずみの、手もと、一千万、
一千万以下に、一千万以下へ、悲哀の
クリック
めのくらむ
クリック
ずっと
棲んでいる
夜に、
クリック


 
posted by クロエ | 19:47 | 詩クロエ | comments(0) | - |

6





やわらかな沼、今は蓋の下、ずっとずっと
落ち葉が粉々になって水中に息を吹きこぼしているところ

  (その日、沼の色をしたいきものが近くにきてくれたのでした
  (つぶれた光のかたち、やさしい濁った姿
  (縁が私の胴を切ろうとしていた、その日に

都市の、引き裂かれた建物、地面の隙間に(あなたの仕事だから)、亀裂を探して、足を擦る
それで私は片方が潰れた生き物をのように、這って、地を覗きこんだ
下に降りてゆく段々などないよ、そんなもの、どこにも
それでも奥には、かすかに生きている石たちが残っている
あぶく玉のような声を出して

  汚くてやさしい沼
  死んだ魚たちが時間を揺すっている池
  溺死体のような倒木が光る沼の底
  役立たずの川
  みんなみんな蓋の下、ずっとずっと
  幼い鬼が泥の中、しゃがんで、ちぎれた絵本を読んでいる
  (ウツクシイ …… ホシガアッタヨ
  (ナノニ …… シラナカッタヨ
  (ダッテ …… ミタコトナド ナカッタンダモノ
  幼い鬼がしゃがんで、千切れた絵本を読んでいる
  (ミズカガミ …… ミズカガミ


天空には水鏡なんかなかったさ、と
石たちが声を出した
来る途中にそんなもの、なんにも見なかったさ
私は片方を潰された生き物のように、いつまでも地の縁に
 這いつくばって
亀裂を覗き込んでいる
段々なんかないよ
懐かしいのはみんなみんな蓋の下、ずっとずっと
こころを落としておく沼や、やさしい泥水、水路の迷い道
 で消えてしまった魚たち
落ち葉が粉々になって水中に音を吹きこぼしているところ
やさしいやわらかい声が蓋の下に隠れたから
それで人の息は場所を失って
場所も息も失って
閉じ込められたまま潰れた光
人の胸が重たくなる方向
うなだれた首が引き寄せられていく先
地面の下に蓋をされて沈められた、ずっとずっと下のほう
どの人の下にも
その沼が横たわっているのだと


posted by クロエ | 19:26 | 詩クロエ | comments(0) | - |