
深いため息をついて、私は目を閉じた。
運ちゃんは、「心配ご無用だよ、お客さんが行きたい場所ならとうにわかってますよ。今までさぞ大変な事でしたでしょう?思い出せない?ばかな。心を静めて落ち着いてみればすぐにわかりますよ」
と言って、薄く笑った。落ち着こう、そう自分に言い聞かせた。カーステレオからは「太陽がいっぱい」がエンドレスで流れていて、この運ちゃんがそのように設定したのだろう、もう5回はそれを聴かされているのだ。
暫くは、何も考えたくなかった、否、考えられなかったが、それでいいと自分を甘やかして目を閉じた。
どれくらいの時間、こうしてこのシートに座っていただろう。1,2時間のような気もするし、一年のような気もする。私ははっとして傍らのバッグに目をやった。バッグはなかった代わりに、10歳くらいの少年が座っていた。少年は虚ろな目をして、窓の外を見ていた。
「ソウタ?」
「何?」
そうだ、私はこの少年ソウタと旅をしていた。
「思い出せましたか?」運転手が真っ直ぐに前を見たまま尋ねる。
「ええ。」
少年ソウタはそれにも飽きてきたようで、しきりにあくびをしたり落ち着かない様子で足をぶらぶらさせたりし始めた。そして「海にいます。海にいますよ」と私の目を見ずに凛としたつめたい朝の水のような声で発声した。海に何がいるのだっけ?いくら思い出そうとしても思い出せないし、また再びあの頭痛が襲ってきそうで怖かった。ソウタの声は私を切りつけるナイフのように鋭利だった。

」 と





